家具のはなし (3) 動く箱

モノのための家具

動く箱

tansu-hako洋服タンスやチェストなどの収納家具は、簡単にいえば「大きな箱」です。扉が開かない、きしむ音がする、引き出しが開閉しにくいなどのトラブルは、この箱の変形が大きな原因です。ではなぜ歪むのでしょうか?

ほとんどの収納家具は直方体なので六つの「面」を持っています。もしこの六面をすべて閉じて結合したら、とても頑丈な箱になるはずです。でも実際の家具は、この六つのうち一番大きな面がひとつ欠けた箱なのです。ちょうどマッチ箱の中箱のように。一面が欠けたこの箱はいろいろな方向からの力に対して、少し変形することで何とかその姿を保とうとします。言い換えれば、少しの力で簡単に動くのです。これが、扉や引出しのトラブルの元です。スムーズに動くはずの扉や引出しを、変形した周囲の枠がじゃまをするのです。

でも固定されていないこの面こそが、大事な「とびら」や「ひきだし」そのものであり、蝶番やレールなどによって動く機能を持たされ、家具としての一番大切な役割を担っているわけです。このような箱の歪みはしかし、一時的なものです。なぜなら、ちょっとでも別の方向から力を受ければ、また簡単に形を変えます。このように、多くの収納家具は簡単に動く箱だと思って間違いありません。

まっすぐな床?

変形のもうひとつの要因は、その箱が置かれる状況にあります。家具の製作現場では、材料を選ぶ段階から組み立てまで、垂直・水平という基準を大切にします。厳格な水平の床に置いてテストをし、この時点で扉はスムーズに開閉され、そのように調整されます。しかし、最終的に置かれる家屋の床は、水平というわけにはいきません。

ご自分の部屋の床や壁がまっすぐではないと聞くと、たいていの方は驚かれます。しかし、それは事実です。極端な例では、古い家なので床が傾いてしまった、ということを聞きます。ビー玉が転がってしまうということも実際にあります。

これが新築の建物であっても、床が完全に水平ということはあり得ません。水平・垂直の確認は、もちろん建築の行程でも重要なものです。しかし実際の施工では技術的な限界もあり、限りなく「水平・垂直に近い」という仕上がりでしかありません。またそれで特に都合が悪いわけでもなく、多少違っていても、日常の生活には何の支障もありません。あまり神経質になる必要はないようです。

悪いのはどっち

実際に不具合が起きたとき、それでは、床と家具のどちらが悪い? ということになりそうですが、この争いはあまり賢明なことではありません。なにしろ「動く箱」と「デコボコの床」の対決です。どちらにも軍配は挙りません。無垢板フローリングなどの例でいえば、ある一枚と隣の一枚では数ミリの高低差があったりします。家具の置き場所を数センチずらしても、扉の開き具合は変わってしまいます。ふわふわした畳敷きの床でどうやって家具を安定させるのかという、もっときびしい課題もあります。

要点は、この場所にこの家具を置きたいという希望を優先し、その位置で水平・垂直を合わせていく。このやり方しかありません。
じっさいに不具合を目にした経験では、扉や引き出しの開閉に関する限り、箱の垂直・水平を調節するだけでこの半数が解決します。残りの半分は蝶番や引き出し用金具の不具合で、これは同様のものに交換できれば解決します。

家全体を水平に戻すのは大変な苦労ですが、家具を水平にすることはそれほど難しいことではないのですから。